ディケンズ・フェロウシップ日本支部

BURNABY RUDGE

『バーナビー・ラッジ』

主な登場人物作品の概要
 

主な登場人物

作品の梗概

1780年のゴードン騒乱の物語という副題が付いたこの作品は、ディケンズが初めて取り組んだ歴史小説である。物語は、1775年3月のある強い風が吹きつける夕暮れ時、エッピングの森のはずれにあるメイポール亭という宿屋兼酒場から始まる。ここの亭主はジョン・ウィレットで、酒場には数人のグループが座っていた。客の一人であった教会書記のソロモン・デイジーが22年前近隣を震え上がらせた殺人の話をした際、その時出たヘアデイルの名前は見知らぬ旅人の興味を引いた。その話というのは、エマの父親で、当時村の近くのウォレン屋敷の所有者だったルーベン・ヘアデイルがある朝寝室で殺されているのが発見された。それと同時にラッジという召使頭と庭師が姿をくらました。数カ月後、当時着ていた服装からラッジを思われる死体が敷地内の池から発見された。父が非業な死を遂げてから、エマ・ヘアデイルは叔父のジェフリー・ヘアデイルとウォレン屋敷に住んでいた。

話が終わると、見知らぬ旅人はロンドンに向けて急に馬に乗って酒場を後にした。途中、ゲイブリエル・ヴァーデンが運転する馬車とぶつかりそうになる。カンテラの明かりでヴァーデンはその旅人の顔の傷を見た。同じ夜、ロンドンへ戻る途中、ゲイブリエルは助けを求める叫び声を聞きつけた。彼はエドワード・チェスターが路上で負傷して倒れている所を発見した。その倒れた男のまわりをルーベン・ヘアデイルの召使頭だったラッジの息子バーナビーのグロテスクな姿が飛び回っていた。その若者は殺人が発見されたその日に精神的欠陥をもって生まれたのであった。バーナビーは母親とおしゃべりカラスのグリップと共に、近くの寂れた通りに住んでいた。バーナビーの助けを借り、ゲイブリエルはその怪我した男をラッジの家に運び込み、ベッドに寝せた。翌朝、ゲイブリエルは昨夜の冒険談を娘のドリーと徒弟のサイモン・タパーティットに話した。エドワードに対するエマの好意を知っていたドリーは大いに関心を抱く。

その夜、ゲイブリエル・ヴァーデンはミセス・ラッジの家へ行き、エドワードの回復状態を確かめた。彼がミセス・ラッジと話をしていると、鎧戸を叩く音がした。ドアを開けるとそこには昨夜ゲイブリエルが出会った男が立っていた。ゲイブリエルはその男がエドワードを襲った追い剥ぎであると確信した。ミセス・ラッジはゲイブリエルにこの見知らぬ訪問者のことは内緒にしておくよう懇願した。

エドワードの父のジョン・チェスターは、息子の結婚に対して野心を抱く自惚れの強い利己的な男であった。不可思議な襲撃のすぐ後で、ジョンとジェフリー・ヘアデイルはメイポール亭の個室で待ち合わせをした。両家とも何年もの間敵対してきた仲であるが、エマとエドワードの縁組みには反対すべき点で、二人の意見は一致した。ヘアデイルはチェスターの傲慢な態度に憤慨しながらも、姪エマのエドワードに対する感情を変えるように最善を尽くすと約束した。約束を忠実に守るため、ヘアデイルはエドワードにウォレン屋敷に出入りすることを禁じた。エドワードが父にこうなったことの説明を求めた時、父は息子の感情的愚かさをあざ笑い、名誉を重んじ、節操ある青年となるよう忠告した。

見知らぬ人物が再びミセス・ラッジの家に現れ、食べ物と金を要求した。このゆすりに怯える彼女とその息子は、密かに家を出て、遠くの田舎の村へ行くことにした。父親の命令を拒むエドワードは、エマに手紙を持っていってほしいとドリーに頼んだ。エマもエドワードへの返事をドリーに託した。ドリーが帰宅する途中、メイポール亭の野蛮な場丁ヒューが、彼女から手紙を奪い取り、それをジョン・チェスターに届けた。ジョンはあらゆる手段を使って、恋人たちを別れさせようとしたのだ。ほどなくジョンは、ヴァーデン夫人、サイモン・タパーティット、ジョン・ウィレットを反カトリックの陰謀に巻き込んでしまう。

ジョー・ウィレットは、恋人の間を行き来するのはやめるようにと息子の自由に干渉するようになった父を、拒否するようになる。その一方で、ジョーは自分のことでも悩みを抱えていた。彼はドリーの近くに居たいがため鍵屋に徒弟としていたが、ヴァーデン夫人によってドリーとの仲を引き裂かれ、失望し、軍隊に入り、アメリカで反逆者たちと戦うため出かけると宣言する。

それから5年後(ルーベン・ヘアデイル殺害のあった27年後)の1780年3月19日、ジョン・ウィレットはメイポール亭を取り仕切っていた。そこへソロモン・デイジーが奇妙な話をもって飛び込んできた。教会の墓地で何年も前に殺されていたと信じられていた男そっくりの姿を見たというのだ。この教会書記の話を、ウィレットはその夜ジェフリー・ヘアデイルにした。家に帰る途中、ウィレットとお供をしていた馬丁のヒューは、3人の馬に乗った男たちに止められた。その旅人とは、反カトリック運動のリーダーのジョージ・ゴードン卿、その秘書のガッシュフォード、召使のジョン・グルービーであった。ゴードン卿は単なる狂信者で、実は、狡猾で悪意をもったガッシュフォードこそが、ロンドンスラムから不満を抱いた法を守らぬ一群を率いる、反カトリックの暴動の真の組織者であった。ヘアデイルは、ガッシュフォードの過去を暴き、彼から敵対視された。

今やナイトの称号を授かったジョン・チェスターは、ゴードン卿の大儀名文に共鳴した。更に、ガッシュフォードの追従者の中には、タパーティット、メイポール亭からヒュー、絞首刑執行人のデニスがいた。バーナビー・ラッジとその母親は、偶然、騒乱が始まったその日にロンドンへ旅をしていた。巨大な群集によって母とはぐれたバーナビーは、ヒューとタパーティットに導かれて暴徒の中に押し込まれた。カトリックの教会、公共の建物、著名なカトリック教徒の家々は略奪され、焼き払われた。

ヘアデイルへの復讐の機会を伺っていたガッシュフォードは、暴徒たちにウォレン屋敷を襲撃させた。途中、メイポール亭も略奪・破壊され、主人は縛り上げられた。ヘアデイルはその時屋敷には居なかった。バーナビーとその母親の居場所を知ろうとロンドンへ出かけていたのだ。ヘアデイルは、チグウェルへ向かった群集の目的を恐れ、また彼の姪とその友人ドリーの安全を確かめに、できるだけ急いで屋敷へ戻った。ソロモン・デイジーも途中合流した。メイポール亭に到着した彼らは、ウィレットの縄を解き、彼から死人が少し前に窓から覗いていったという奇妙な話を聞いた。ヘアデイルとデイジーは既に廃墟と化したウォレン屋敷へ馬にまたがり飛ぶように駆けていった。灰の中をかき回しているうちに、彼らは小塔に潜んでいた男を見つけ出した。その男こそ、二重の殺人を犯したラッジであった。ヘアデイルはラッジをニューゲイト監獄に投獄した。2、3時間後、暴徒たちが監獄を襲い、収容者たちを解放した。片腕の見知らぬ男から、バーナビーが投獄されたことを知ったヒューが暴徒たちを率いて襲撃したのだ。

タパーティットとデニスはエマとドリーをロンドン郊外のみすぼらしい小屋へ連れていった。暴徒から避難しようとしてヘアデイルは知り合いの酒問屋の家へ行くが、群集たちにその家を襲われた。秘密の通路を通ってようやく逃れた彼らは、外国から戻ってきたばかりのエドワード・チェスターとジョー・ウィレットと偶然出会った。ジョーはアメリカで片腕を失っていた。エドワードとジョーはヘアデイルと酒問屋を安全な場所に導いた。バーナビーとその父とヒューは、デニスに裏切られ、捕まり、死刑を宣告されることとなる。エドワードとジョーは女性たちが捕らわれている場所を知り、救出に向かった。そこでエマやドリーと共に負傷しているタパーティットも発見した。

暴徒たちは完全に鎮圧され、ガッシュフォードは自らの身を守ろうとして、ゴードン卿を裏切った。デニスもまた逮捕された。ミセス・ラッジは亭主に絞首台で死ぬ前に悔い改めるよう説得した。ジョン・チェスター卿の実の息子であることがわかったヒューも、またデニスも、同じ終わり方をした。ゲイブリエル・ヴァーデンは、死刑が決まっていた無垢なバーナビーを、釈放させることに成功した。ヘアデイルはエドワードとエマの縁組みに反対していたのを撤回し、イギリスを去ることにした。しかし、出発する前に彼はウォレン屋敷の廃墟を再び訪れ、そこでジョン・チェスター卿と再会した。ヘアデイルはジョンと決闘し、殺してしまう。その夜、彼は外国へ逃亡し、数年後修道院で人生を終えた。ゴードン卿は獄中生活を送り、43歳という若さで独房内で死んだ。ガッシュフォードは主人の秘密を売り物に、食いつないでいたが、やがて惨めな生活を送ることになり、最後は毒を飲んで死んだ。しかし、こうした残忍なことはドリーやメイポール亭の夫婦の関心事でもなく、またバーナビー・ラッジの素朴な幸せをかき乱すものでもなかった。バーナビーは母親とカラスのグリップと共にその後何年もメイポール農場に住んだ。

(担当:小野寺進氏)

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