ディケンズ・フェロウシップ日本支部

DAVID COPPERFIELD

『デイヴィッド・コパフィールド』

主な登場人物作品の概要
 

主な登場人物

作品の梗概

デイヴィッド・コパフィールドは、サフォーク州(イングランド北東部、北海に面する)のブランダストンに生まれる。父は半年前に他界、その彼を可愛がっていた変わり者の伯母ベッツィ・トロットウッドは、自分の姓を継ぐ女子の誕生を確信していたのに生まれたのは男子、その「裏切り」に立腹して即刻立ち去ってしまう。デイヴィッドはやさしい母と、頼もしく献身的な乳母ペゴティ(その頬は赤いリンゴ、デイヴィッドを抱き締めればエプロンの背中のボタンが一斉にはじけ飛ぶ)の愛に浸って楽しく生い立つうち、口先巧みに女心を惑わす卑劣漢マードストンが登場して、若く美しい未亡人の母は再婚へ心が動く。

それとも知らぬデイヴィッドはペゴティに連れられてヤーマスの浜辺へ。その兄ペゴティ氏の「ボートの家」で、かわいいエムリや素朴な好青年ハムと楽しい数日を過ごす。エムリもハムも海で父を失った孤児で、ペゴティ氏の義理の姪と甥、ことにエムリは幼い恋の相手としてデイヴィッドの心に残る。デイヴィッドが「我が家」に戻ってみると、義父として乗り込んできたマードストンと、続いてやって来たその姉ジェインが家の実権を握り、母の影は薄れて陰鬱の気が家中を覆っている。独善的で、厳しく冷酷な義父の「教育的]鞭打ちに反抗し、その手に噛み付いたデイヴィッドはロンドン近郊のセイレム寄宿学校に送り出される。途中のヤーマスまで彼を送るノロマな馬車屋バーキスの、ペゴティヘの奇想天外な求愛宣言、立ち寄った宿屋での狡猾な給仕の悪辣ぶりなど、デイヴィッドの世界は広がって行く。

セイレム校では無知で冷酷な校長クリークルのもとで怯えた日々を送るが、二人のユニークな友人に救いを見出だす。一人は良家の出で能力風貌ともに抜群ながら、下層の人々を軽視し、校内怖い者なしのスティアフォース。もう一人は鞭を食らって泣きながらも、ノートに骸骨の絵を描きまくって元気を取り戻す愉快なトラドルズ。二人ともデイヴィッドの人生に深く関わって行く。

デイヴィッドの母クレアラは、マードストン姉弟の強引な家政独裁に気力体力尽き果てて間もなく他界。デイヴィッドは家計窮迫を理由に学校をひかされ、ロンドンの酒類輸入商マードストン・グリンビィ商会へ小僧に出される。万年家計窮迫のミコーバー氏の家に下宿し、長時間労働、空腹、無知で下賎な仲間、展望ゼロの絶望の日々を送るが、やがてミコーバー氏は負債者監獄に収容される。出獄後は再起を期して家族とともにプリマス(イングランド南東部)へ去る。友人ミコーバー一家を失ったデイヴィッドは、底辺生活からの脱出を決意、ドーバーに住むと聞くただ一人の肉親、大伯母ベッツィ・トロットウッドを頼ってロンドンを発つ。

脱出行早々に路銀を奪われたデイヴィッドは、脱いだチョッキは恐ろしいうなり声を出す古着屋、悪魔に身を売ったチャーリー親父に買い叩かれ、無頼の鋳掛け屋にハンカチを奪われ、なき母の面影だけを支えに空腹を抱えて野宿を重ね、浮浪児同然のやつれ果てた姿で大伯母の家にたどり着く。

唖然としたベッツィ・トロットウッドも、同居する奇人ディックさんの助言でデイヴィッドの保護を決意する。彼女は、義父マードストンのデイヴィッド引取りの申し出を拒否、哀れな少年の親代わりとなる。デイヴィッドは、、弁護士ウィックフィールド氏(大伯母の友人)の世話でカンタベリーにある、ストロング博士の学校へ通うことになる。ウィックフィール家に下宿したデイヴィッドは、早く母を亡くし幼い身で父の世話をする、賢く優しいアグネスと兄妹のように親しむ。一方「ウィックフィールド事務所」の書記ユライァ・ヒープは、謙譲を装いつつ(「私は卑しい身分の出で一一」が口癖)、幸運なデイヴィッドヘの妬みに燃える。その手の不気味な冷たいヌルヌル、死んだ魚の肌触りは、握手したデイヴィッドをゾッとさせる。

十七歳で学業を終えたデイヴィッドは、職業決定の前に世情見聞の旅に出る。昔の学友スティアフォースに偶然出会い、誘われて彼の家を訪ね、誇り高き彼の母および激しい情熱で彼を愛する従姉妹のダートル嬢に会う。その口元には昔スティアフォースが癇癪を起こして刃物を投げ付けた傷跡がみられ〉彼の性質に潜む残酷さを物語るが、彼女は彼の気紛れな愛情に甘んじている。

デイヴィッドは彼をヤーマスに誘い、ともにペゴティ家を訪ねる。スティアフォースは成長したエムリの美しさに惹かれ、エムリもまた、ハムとの結婚ま近いにも拘らず、彼の誘惑に乗って家出を決意する。まだ人生経験未熟なデイヴィッドは親友の心に潜む強烈な自我の主張と下層の人々を踏みにじって省みない非情さを知らない。

デイヴィッドは法律事務習得のためスペンロー・ジョーキンズ法律事務所に入る。たまたまロンドンに来たアグネスが、悪影響への懸念から、スティアフォースとの交際を避けるようデイヴィッドに忠告。また彼女は、ユライアが、アル中で耄碌気味の父ウィックフィールド氏の弱み付け込んで共同経営権を得ようと企んでいる旨を告げ、デイヴィッドの不安を募らせる。ユライアに直接会ったデイヴィッドは、アグネスとの結婚をも視野に入れた彼のおぞましい野望を知り、憤激と憎悪に身を震わせる。

スペンロー氏邸に招かれ、氏の娘ドーラを一目みた瞬間、デイヴィッドはその愛らしさに目が眩み、真っ逆様に恋の淵へ一一。ドーラの愛情を得て秘密の婚約を結び、雲の上を歩む思いも束の間、悲報が相次いで彼を襲う。ひとつはスティアフォースとエムリの駆け落ち、もうひとつは大伯母の全財産が投資の失敗で突然消えたこと。ユライアの計画着々と進んで、彼が共同経営者になった旨も報じられる。この難局に当たってデイヴィッドは奮起一番、大伯母の経済的危機の一助にもと自立の生活を目指し、旧師ストロング博士の辞書編纂を手伝う傍ら、議会討論の報道記者たるべく速記の独習を始める。

スペンロー氏の不慮の死で、ドーラが無一文で世に残されたことを知り、デイヴィッドは一段と奮い立って速記習得に心血を注ぐ。悪夢の苦闘を経て議会の報道記者の地位を得、ドーラと念願の新家庭を持つに至るが一一。早々に彼女の家政能力欠如が明らかになり、召使には誉められっぱなしで家計は目茶々々、自ら幼な妻を名乗って甘えるだけの恋女房に、デイヴィッドは厳しい人生の伴侶として頼りなさを覚える。胸には苦い後悔と不安と奥深く潜むのに気づく。

この頃、ユライアの秘書になっていた旧友ミコーバー氏の夫人から、ご亭主の神秘的行状を報じる手紙がトラドルズのもとへ、ミコーバー氏本人からのウィックフィールド事務所への訪問要請の手紙がデイヴィッドの手に届く。デイヴィッド、トラドルズ、ベッツィ・トロットウッド、アグネス、それにユライァ本人が顔を揃えたその席で、意外やミコーバー氏が秘書勤務を装いながら集めたユライア偽造の書類を提示し、この卑劣漢の事務所乗っ取りの計画犯罪一切を暴く。ユライアは最後の足掻きを見せながらも母親の懇願で降伏、帳簿でもみ消されていたベッツィ・トロットウッドの財産も、ウィックフィールド氏の資産も一部回収の見通しが立つ。一世一代の離れ業をやってのけたミコーバー氏は、オーストラリアに新天地を求めようと決意する。病弱だったドーラは衰弱日増しに募り、手厚い看護もむなしく、ついに他界する。臨終の夜にはアグネスが一人ドーラの枕頭に立って遺言を聞き取った後、悲嘆に沈むデイヴィッドをやさしく慰める。

デイヴィッドは、アグネスの勧めに従い大陸旅行を決意するが、出発前にエムリから託された最後の手紙をハムに届けるべくヤーマスに向かう。未曾有の暴風吹き荒れる浜辺の遠からぬ沖合に、座礁して山なす大波に弄ばれる帆船と、その折れたマストにしがみつく人影が見える。その生存者を救うべく、あのハムが体に綱を巻き付けて怒濤のなかに飛び込んで行き、あわや舟に届くとみえた時、高く、青く、巨大な山腹のような大波が船もろともにハムの姿を飲み込んでしまう。浜辺に横たわる死体ふたつ一一命綱で引き寄せられた、雄々しいハムのそれと、波に打ち寄せられた、かれの敵スティアフォースのそれと。

ミコーバー氏は一家を引き連れてオーストラリアヘと船出する。同行するのはペゴティ氏とその姪エムリ(スティアフォースに捨てられて長い苦難の末、悲嘆と後悔の身を伯父の手に委ねた)、連れ合いバーキスを失った妹のペゴティ、その他。船は赤い夕日の水平線に消え、ケントの山々とデイヴィッドの身辺を闇が包む。

大陸に渡った傷心のデイヴィッドは一年の放浪の後、美しいスイスの谷間の夕暮れに心の傷が癒されるのを覚える。いつに変わらぬアグネスからの励ましの便りを読み返すうち、自分の心の奥底にあり続けた愛の対象が彼女に他ならなかったことを始めて、はっきりと知る。その遅すぎた自覚と悔いと悲しみに耐え、さらに二年を大陸にとどまって作家としての仕事を世に問い、かなりの名声を得てのち、彼はイギリスに帰る。大伯母の暗示から、諦めていたアグネスが今なお自分を愛していることを知り、愛切なる告白の場面を経て二人は結ばれ、仕合わせな家庭を基盤に、デイヴィッドは作家としての道をひた進む。

十年後、作家としての名声確立したデイヴィッドの家に、思いがけなく訪ねてきたのがペゴティ氏、オーストラリアに移住した親しい友人たち夫々の嬉しい消息をつたえて、デイヴィッド半生の記は終わる。

(附記)『オリヴァー・トゥイスト』(1837-38)『大いなる遺産』(1860-61)『互いの友』(1864-65)などと読み合わせると、作者の人生展開の軌跡が辿れて面白い。

(担当:間 二郎氏)

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