『リトル・ドリット』
主な登場人物|作品の梗概
主な登場人物
- エイミー・ドリット(Amy Dorrit)
リトル・ドリットと呼ばれ、この小説の題名となっている。ウィリアム・ドリット(William Dorrit)の二女として債務者監獄マーシャルシー(Marshalsea)に生まれる。家族中で誇りを失わない唯一の人物で、父親の生活費をまかなうために針女として働く。クレナム夫人(Mrs. Clennam)の家でアーサー・クレナム(Arthur)に会い、彼に生きることの興味をよみがえらせる。父親に巨額の遺産がはいって一家が獄を出てからも、まともな心を持ち続け父親の世話をする。父親が死に、財産もなくなった後、アーサーと結婚する。
- ウィリアム・ドリット
マーシャルシーに二十五年間監禁され、「マーシャルシーの父」と呼ばれている。他の囚人たちからときどき生活費の援助を受け、それを「記念品」(testimonial)と称してごまかしている。エイミーが働くのは、これを止めさせるためなのである。獄を出て後、家族をつれて豪華な外国旅行をする。ジェネラル夫人(Mrs. General)を娘たちの作法の先生としてやとう。やがて彼女に結婚を申しこもうとしていた矢先に病気になり、再びマーシャルシーに戻ったものと思いこんで死んでいく。マードル(Merdle)の不健全な企業に全財産を投資していたが、この企業が失敗するため、一家はまた貧乏になる。
- エドワード・ドリット(Edward Dorrit)
エイミーの兄。マーシャルシーに毒され性格がゆがむ。獄を出て後もまともな生活にはいれず、ついには飲酒のため健康を失う。
- ファ二−・ドリット(Fanny Dorrit)
エイミーの姉。虚栄心強く浮わついた女性。バレーの踊り子。マードル夫人のむすこ、エドマンド・スパークラー(Edmund Sparkler)の心を引きつけるが、マードル夫人に邪魔された。金持になった後、イタリアで再びエドマンドに会い結婚する。生まれた子供たちを放任するので、エイミーが育てる。
- フレデリック・ドリット(Frederick Dorrit)
ウィリアムの弟。見すぼらしいクラリネット奏者。ウィリアムは彼の健康を心配する振りをして、実は自分の健康に関する不安をまぎらしている。
- ア−サー・クレナム
クレナム夫人の養子。中国で父親と死に別れて帰国し、母の家でエイミーに会い心を引かれる。彼女およびその父親についての調査を進めるうち、昔の恋人フローラ・フィンチング(Flora Finching)に会う。彼女はおしやべりな、ふとった女になっており、アーサーを失望させる。ダニエル・ドイス(Daniel Doyce)と事業の共同経営をするが、会社のすべての金をマードルの企業に投資し、マードルの破産により、自分も無一文になりマーシャルシーに入れられる。そこで病気になり、エイミーの親切な看護を受け、やがて彼女と結婚する。
- クレナム夫人
長年病床にあるカルヴィニズムに固まった老婦人。若いときアーサーの父親と結婚したが、彼に愛人がいて、子供もいることを知る。夫人はこの子供を女から奪い、自分の子供として育てる。夫の叔父ギルバート・クレナム(Gilbert Clennam)が死んだとき、フレデリック・ドリットまたはその一番若い姪に千ギニーを贈るという遺言補足書が見つかるが、彼女はそれを握りつぶす。後にリゴー(Rigaud)がそれを嗅ぎつけ彼女を恐喝しようとするが、彼女は書類をエイミーに渡す。
- ミーグルズ夫妻(Mr. and Mrs. Meagles)
旅行好きで、気持のやさしい老夫婦。娘ペット(Pet)の女中として孤児タティーコラム(Tattycoram)を家族の一員とするが、彼女はミス・ウェイド(Miss Wade)にそそのかされて家出する。しかし、暫くして、また戻る。
- リゴー
別名ブランドワ(Blandois)およびラニエ(Lagnier)。小説の始めではマルセーユの刑務所にいる。クレナム夫人の秘密を立証する書類を手に入れ、彼女を恐喝するが、彼女の家が崩壊したとき下敷となって死ぬ。
- フローラ・フィンチング
クリストファー・カスビー(Christopher Casby)の娘。アーサー・クレナムの若いときの恋人。フィンチングと結婚し、アーサーが再会したときは、ふとって散漫なおしやべりをする未亡人になっている。気持は親切で、彼の頼みでエイミー・ドリットの味方になる。
- クりストファー・カスビー
フローラの父。「最後の族長」(Last of the Patriarchs)と呼ばれる一見温情に満ちた老人だが、実は貪欲で傷心地区(Bleeding Heart Yard)その他の貧民街の家主として、家賃の取り立てにやかましい。しかし、実際の仕事はパンクス(Pancks)にやらせ、自分は彼のきびしさを抑えるような振りをしている。
- マードル(Merdle)
金融業者、銀行家。放漫な経営により破産し自殺する。アーサー・クレナムやドリットー家はこれにより財産を失う。
- ジェネラル夫人
ドリット家の作法の先生。「ジェネラル夫人には、不愉快なことは何も話してはならないのだった。事故、悲惨、犯罪等の話は彼女の前で口にしてはならなかった。情熱は彼女の前では眠り、血はミルクと水とに変わらなくてはならなかった。これらを全部差し引いて、その後に残った狭い世界を、ジェネラル夫人は塗り上げるのであった」
作品の梗概
マルセーユの牢獄で、悪党のリゴーが相棒のカヴァレットー(Cavalletto)に、自分は金欲しさに妻を殺したために投獄されたのだと話す。彼は裁判に送られる。マルセーユにはアーサー・クレナムも来ている。彼は父の商売を手伝って二十年間東洋に住んでいたが、父が死んだため帰国する途中である。彼は検疫所にいるが、そこにはミーグルズー家も留められている。ミーグルズ氏の美しい娘ペットが皆にちやほやされるので、女中タティーコラムは甚だおもしろくなく、船客のひとりウェイド嬢の同情を求める。
ロンドンに戻ったアーサーは母のクレナム夫人に冷たく迎えられる。アーサーは母に、父は事業で何か不正なことをしたようだと語るが、母は、彼が二度とそんなことを口にすれば家から追い出すと言う。
アーサーは、クレナム夫人の裁縫をしている少女エイミーに会う。彼女は「マーシャルシーの父」ウィリアム・ドリットの末娘で、父親や兄姉の生活を支えるために針女として働いているのである。ウィリァム・ドリットの弟、フレデリックを通してアーサーはドリット一家に紹介され、エイミーに対する好意から、ドリットを出獄させる方法を考える。彼は繁文縟礼省でドリットの債権者について調査しようとするが、うまく行かない。彼は発明家ダニエル・ドイスに会うが、二人は後に協同経営者になる。また、傷心地区のプローニシュ夫妻(the Plornishes)にも会う。リゴーも釈放されて再び登場する。
アーサーは、かつての恋人フロ−ラ・フィンチングに会う。彼女に幻滅を感じたアーサーはミーグルズ家を訪ね、ペットに愛を感じるが、抑える。エイミーの姉ファニーはエドマンド・スパークラーに求愛されるが、彼の母マードル夫人が反対するだろうと思い、受けつけない。エイミーはアーサーを愛しているが、彼には知らせない。ペット・ミーグルズは画家のヘンリー・ガウアンに心を引かれ、結婚する。リゴーは、ブランドワと名のってクレナム夫人の家を訪れる。
家賃集めを業とするパンクスは、ウィリアム・ドリットが莫大な遺産の法定相続人であり、財産家となってマーシャルシーを出られる身であることを発見する。自由になったドリットは家族を連れて外国旅行に出る。一家は、スイスでは結婚したばかりのガウアン夫妻に会う。次にはファニーに求婚したことのあるスパークラーとその母親、およびブランドワといっしょになる。また、ドリット姉妹の付き添いとしてジェネラル夫人も同行しているが、彼女はウィリアムと結婚しようと考えている。ファニーはスパークラーと結婚する。スパークラーの継父マードルはウィリアムに財産投資の方法について説き、ウィリアムはそれに従う。ドリットは思考力が衰え、まだマーシャルシーにいるのだと錯覚し、マードル夫人のパーティーで客たちに奇妙な演説をする。その十日後、彼は死に、弟のフレデリックもその傍で死ぬ。
アーサー・クレナムはウェイド嬢に会うためにカレーへ行く。タティーコラムが彼女の許に逃げて来ている。アーサーはロンドンでウェイド嬢がブランドワといっしょにいたのを見たので、彼について彼女に尋ねるが、彼女は何も教えようとしない。しかし、彼女は自分の経歴について書いたものを彼に渡す。彼はロンドンに戻ると、偶然カヴァレットーに会い、リゴーすなわちブランドワの過去の悪事について聞かされる。アーサーはこれをクレナム夫人に伝えるが、彼女は信じようとしない。夫人の女中アフリー(Affery) が家の中で夜間こえる不思識な物音について彼に告げる。
マードルが自殺し、彼の事業に投資していたアーサーは破産する。彼は借金のためマーシャルシーに投獄される。エイミーが獄に彼を訪ね、自分の財産を全部彼に提供すると言うが、彼は断わる。
ブランドワは、クレナム夫人に、彼女の秘密を知っていると言う。それは、アーサーの出生についてと、エイミーが受け取るはずの遺産についての遣言を彼女が握りつぶしたことであった。彼はこれを用いて彼女を恐喝する。彼女はマーシャルシーヘ行って、病気のアーサーの看護をしているエイミーに会い、いっしょに邸の側まで戻ると、家は崩れ、ブランドワはその下敷となって死ぬ。アフリーの聞いた不思議な物音は、この家が腐朽して崩れる前兆だったのである。
ミーグルズ氏はフランスに行ってウェイド嬢に会い、ブランドワが彼女に託した書類を渡すよう頼むが、彼女は断わる。しかし、彼がイギリスに戻ると、タティーコラムが書類を持って現われる。彼女はウェイド嬢の本性を知って、その影響を恐れ、逃げて来たのであった。ミーグルズ夫妻は再び彼女を家族の中に迎える。
回復したアーサーは、ダニエル・ドイスとミーグルズの力でマーシャルシーを出る。エイミーは、彼女の一家の財産もまたマードルのために全部なくなってしまったので、彼に与える富は何もないと告げる。二人の結婚がマーシャルシーの傍の教会で行なわれる。
- このページは宮崎孝一『ディケンズ:後期の小説』(東京:英潮社、1977) から取ったものです。転載を日本支部に快く許可してくださいました宮崎孝一氏に感謝いたします。
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