ディケンズ・フェロウシップ日本支部

THE MYSTERY OF EDWIN DROOD

『エドウィン・ドルードの謎』

主な登場人物作品の概要
 

主な登場人物

作品の梗概

ジョン・ジャスパーはクロイスタラム(モデルはロンドン南東部の町ロチェスター)にある大聖堂の若い聖歌隊長である。彼はほんの2、3歳しか若くない甥で孤児のエドウィン・ドルードの後見人をしていた。ところが、そうした責任ある立場にもかかわらず、ジャスパーはアヘン常用者であった。エドウィンの方は、彼が雇われている会社の共同経営者に、いつか将来なるはずの見習い技師である。彼の父がその会社の所有者の一人だったのだ。エドウィンは仕事がら世界中をめぐり歩いていたが、叔父ジャスパーと婚約者ローザ・バッドに会うために、ことあるたびにクロイスタラムに帰ってきていた。

ローザ・バッドはクロイスタラムにあるトゥインクルトン女史の女子寄宿学校で、レディーになるための教育を受けている。彼女の両親はすでに亡くなっていた。ローザとエドウィンの父親は、非常に仲のよい友だちだったので、お互いの子供をいいなずけとし、適当な時期に結婚させることを遺言で決めていた。しかし、それから何年かたって、二人の若者は自分たちが愛し合っているわけではなく、親たちの願いに従って結婚したいと思っていないことが分かった。ローザの寄宿学校時代の最後の年に、二人は友達のままでいることに同意する。ジャスパーはこのような二人の間に介在し、ローザに対して邪恋を抱いており、目による催眠術で彼女を恐れさせる。そのことにローザ以外の者は誰も気づいていない。

ある時、エドウィンがクロイスタラムを訪れていると、セイロンの辺境で孤児になったイギリス人の若い男女が、この町へやって来た。その少女、ヘレナ・ランドレスはローザ・バッドと同い年で、彼女もまた女子寄宿学校に入学する。一方、エドウィン・ドルードと同い年のネヴィル・ランドレスは大聖堂小参事会員、クリスパークルのもとで勉強を始める。クリスパークルはジャスパーとエドウィンの友達だったので、自分の生徒であるネヴィルを二人に紹介し、みんなが誠実な友になることを望んだ。しかしながら、若いネヴィルはローザに強く魅せられ、エドウィンの彼女に対する気まぐれな態度にいらいらさせられる。ネヴィルとエドウィンがジャスパーの下宿に居合わせた、まさにその晩に二人は喧嘩をしてしまう。もし自分が止めなかったならば、ネヴィルは怒りのあまりエドウィンを殴り倒してしまったっだろうとジャスパーは言いふらす。

ローザとヘレナは親友となったので、ローザは自分がヘレナの兄ネヴィルに恋をしていることを告白する。ローザはそうした気持ちをジャスパーに言わなかったが、まもなく彼はそのことに気づいて非常に嫉妬する。ジャスパーはアヘン耽溺のために、時としてとても不可解で異様な状態になることがあった。ジャスパーは同じように風変わりな男、石屋のダードルズと知り合いになる。ダードルズはジャスパーと一緒に大聖堂を探検し、その古代の建物の地下にある色々な古い墓を教えてやった。ある真夜中、そのような探検をしているとき、ダードルズは泥酔してしまう。彼が眠っている間に、ジャスパーはダードルズのポケットから地下室の鍵を盗み出す。その鍵で彼がのちに何をしたかは謎のままとなる。

次のクリスマスの季節に、クリスパークルは喧嘩をしたネヴィルとエドウィンを仲直りさせようとする。彼は二人がジャスパーの下宿で会い、お互いに謝罪をしてから楽しい晩を過ごすように提案する。二人の若者はこれに同意する。ところが、クリスマスの朝、エドウィンがいなくなったと叔父のジャスパーが言い出す。その前の晩、二人の若者が彼の下宿から出て、川の方へ歩いていったというのだ。それ以後、二人の姿を見た者はいなかった。クリスパークルが姿を現わすと、その日の早朝ネヴィル・ランドレスが一人で徒歩旅行に出たと報告する。捜索隊がネヴィルのあとを追い、クロイスタラムに連れもどす。ネヴィルは誰にも自分の無実を納得させることができない。とはいえ、彼が罪を犯したと決めつける十分な証拠はない。実際、エドウィンの死体は見つからず、クリスパークルが川で彼の時計とネクタイピンを見つけただけだった。

最初、ネヴィル・ランドレスの無実を確信していたのはローザとヘレナだけだった。彼女たちがすぐに自分たちの側に説き伏せたクリスパークルは、ネヴィルがクロイスタラムを離れて、ロンドンへ逃亡するのを助けてやる。ジャスパーはネヴィルを殺人者として有罪にする証拠を見つけてやると誓う。彼はまたネヴィルが犯人である証拠を持っているとほのめかす。しかしながら、エドウィンが実際に殺されたことを示す決定的な証拠はなかった。

2、3ヶ月後、ジャスパーは女子寄宿学校に現われて、ローザに会いたいと申し出る。二人が校庭を歩いているとき、ジャスパーは彼女への愛を告白し、自分がネヴィル・ランドレスを絞首台へ送る十分な証拠を持っていると言う。彼はまたローザが愛に報いなければ、自分の知っていることをばらすと警告する。彼が立ち去ったあと、ローザは退学してロンドンへ行く。そこで彼女は後見人であるグルージャズに保護を求める。この後見人は風変わりな男だったが、何年も前に彼女の母に恋していたという理由で、彼女をかわいがっていた。グルージャズはローザがロンドンの下宿で安全に滞在できるように取り計らう。次の日、クリスパークルがロンドンに到着し、ネヴィルとローザを苦しみから救い出してやる計画を立て始める。

ある日、ダッチェリーという白髪の見知らぬ男がクロイスタラムにやって来る。彼は余生を平穏無事に終えるために、静かな下宿を探していた。古風で趣きのある住居を探していた彼は、地下道のある古い門番小屋にあるジャスパーの下宿の向かいに部屋を借りる。通行人たちは彼がドアを閉めて、その背後に時間ぎめで座っている姿をよく目にしたものだった。彼はジャスパーについての話を聞くたびに、部屋の戸棚の内側に時には長く、時には短くチョークで印をつけた。それからしばらくして、ジャスパーは彼がアヘンを買っていた老婆に影のように絶えずあとを付けられる。この聖歌隊長について彼女は明らかに何かを知っているようで、他にも色々と疑っていた。ダッチェリーは彼女のジャスパーへの異常な関心に気づき、安ホテルまで彼女のあとをつけて行く。次の朝、その奇妙な老婆とダッチェリーは、一緒に大聖堂のミサに出席する。この女が自分はジャスパーを知っているとダッチェリーに言うと、彼は家に帰って、戸棚のドアの裏につけていたチョークの印に、もう一つ同じものを付け加える。

ここで物語は終わる。ディケンズは1870年6月9日に60歳で急死し、小説は未完にまま残された。彼がどのように物語を終わらせようとしたかを示す覚書は、彼の書類の中にはなかった。ディケンズの死の沈黙によって、この未完小説は文字どおり謎となり、その謎の解決について多くの論文や小説が書かれている。

(担当:松岡光治氏)

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