ディケンズ・フェロウシップ日本支部

THE OLD CURIOSITY SHOP

『骨董屋』

主な登場人物作品の概要
 

主な登場人物

作品の梗概

孤児で14歳になる少女ネル・トレントは母の父である祖父トレント老人と二人で住んでいる。老人は骨董屋を営みながら、ネルを金持ちの貴婦人にしたいという願望に取り付かれているが、そのために老人は、ネルを7つ年上で飲んだくれの放蕩者の兄フレッドから遠ざける一方で、ネルに十分な財産を残してやりたい一心から一攫千金を夢にて賭博までに手を出す。けれども骨董屋からの収益はもとより有り金をすべて賭けで失ってしまう。それにも懲りずに老人は高利貸しのクウィルプから借金をしてまで賭博につぎこむが、それも一文無しになる。

クウィルプは不格好な小びとで残忍強慾な金貸しである。老人を破滅させ、いつかはネルと結婚しようと企んだクウィルプは、老人の経営する骨董屋を差し押さえてしまう。そこで少女は祖父をつれて夜中に乗っ取られた我が家を脱出し、ロンドンを後にして西方にあてどもない放浪の旅に出る。

無一文であるが二人は、道中、多くの友人に出会った。しばらく「パンチ・アンド・ジュディ一座」に同行する。けれども彼らの行動や交わりに不安を感じるようになったネルはその場から祖父を引きつれて、こっそり逃げ出す。次に味方になって助けてくれたのは「ろう人形」を見世物にする女主人、ジャーリー夫人だった。けれども老人の生来の博打熱のために、二人はこの恩人と別れざるを得なくなる。運河や広い田舎、大きな工業都市などをさまよったあげくに、出会ったのが逃亡の初めごろ親切にしてくれたあの貧乏教師だった。教師は、新任地に赴く途中であったが、二人を庇護のもとにおく。教師の勧めで少女と老人は小さい町に落ち着き、そこの古い教会の番人になる。そこには堂守が住んでいるから、二人の仕事はほとんどない。

一方、ネルと老人がロンドンを出奔した時、後に残してきた友人にキット・ナブルズという名前の少年がいる。少年は二人を捜し出そうと骨を折るが、クウィルプの敵意に阻まれたり、未亡人の母と自分の兄弟への扶養の手助けに追われたりして、不首尾に終わる。それに加えて、正直者に対して異常な憎しみを抱くクウィルプはネルを捜し出し、兄フレデリックの友人、ディック・スウィヴェラーと結婚させようとしている。この若者ディックは平気でひどい手段を使って押し通す事務弁護士サムソン・ブラースの事務所の事務員を勤めている。

ネルと老人が姿を消してのち、一人の見知らぬ独身の紳士が現われて、サムソン・ブラースから部屋を借りる。やがて、この「独身紳士」も少女ネルと祖父を探し求めていることが分かる。独身紳士は、キットと彼の雇用主ガーランド氏に自分は二人の逃亡者に金銭的援助をしたい旨を告げ、キットの手助けを得て二人の居場所を発見しようとする。あいにく、かすかな手がかりをつかみかかった所で、捜索は行き詰まる。彼らの追跡はろう人形を見せるジャ-リ-夫人の所までは辿り着くが、その後は、見たところ、二人の姿は地上から消え失せてしまう。

一方、クウィルプは、誰かがネルに援助の手を差し伸べたがっているらしい、それでは自分の結婚の画策がおじゃんになるとかんかんに怒る。そこで彼は独身紳士の努力の裏をかき阻止しようとする。それを実行するためにクウィルプは弁護士ブラースと妹のサリーと企んで、キットが5ポンドの金を盗んだように見せかける。ブラースは5ポンド紙幣を少年の帽子の裏地の中に忍ばせておいて、そのすぐあと金が彼の帽子の中から見つかったとして、キットは窃盗のかどで告訴される。彼は身の潔白を主張したり、独身紳士とキットの雇主は少年の不当な告訴に疑念を表明したにもかかわらず、有罪となり植民地への流刑を言い渡される。

ディック・スウィヴェラーは、ブラースに使われていた一人の少女を通して、キットはいわれなく有罪にさせられたことを発見する。ディックの助力を得て独身紳士とガ-ランド氏は国外へ移される前に、キットを監獄から釈放し自由の身にすることができる。更に、その間に二人の捜索者はブラースが弁護士の資格を剥奪され投獄されることになる彼のあくどいやり方を突き止める。しかし、その頃になると、ブラースは、クウィルプから受けた下劣な扱いに激高していて、クウィルプを引き出すためなら彼に不利な証言をすると息巻く。妹のサリーは姿を消す。自分の企んだ陰謀があらぬ方向に行くと、サリーから警告を受けたクウィルプは、訴追から逃げようとする。テムズ河南岸で真っ暗闇の夜、事務所の外の扉をたたく音を聞いたクウィルプは建物から出るが、闇の中で方向を見失う。彼はつるつる滑る波止場で足をとられて激流のテムズ河の中へ落ちる。流れにもまれながら北岸の、昔海賊が首をくくられた辺りの軟泥の水際に死体として打ち上げられ、日にさらされる。

ほどなくして独身紳士はネルと祖父の所在を知る。独身紳士は、キットと彼の雇主に付き添われて、村の教会の番人をしている少女と老人に会いに出発する。道中、独身紳士はなぜ二人に関心を持つようになったか、そのわけを語る。

告白によると、この独身紳士はネルの祖父の弟だという。その昔、二人は一人の同じ少女に恋をしたことがあり、求婚が不首尾に終わった自分は英国を去った。何年かのち帰国してみると、ネルの父と兄のフレデリックが一家の財産を食いつぶしてしまい、ネルと祖父は非常に窮乏して困っており、老人がその窮地から一家を救おうと一人もがいている現状を知る。独身紳士は、自分で自由に使うことのできる富を持っているから、兄と少女ネルを陥った窮状から一刻も早く救い出したいと願っていると言う。

救助隊は村に到着するが時すでに遅く、ちょうどネルはこの世を去ったばかりで、安住の地となった教会の墓地に埋葬されている。祖父もネルを失った数日後に彼女の墓で息を引き取り、隣に埋葬されている。

サムソン・ブラースは刑期を終えたあと、それまで姿をくらましていたサリーと一緒になって、ロンドンや近郊で食べ物を漁りながら、こじき同然になり下がっている。クウィルプ夫人は死んだ夫のおかげで思わぬ金持ちになり、幸せな再婚をする。ディック・スウィヴェラーは、ブラース事務所の召使いの「侯爵夫人」と、彼女が19歳になるのを待って結婚する。キット・ナブルズは、雇主の妻ガ-ランド夫人の召使いバーバラと結ばれる。骨董屋は取り壊されて新しい建物になり、道路も広くなっている。キットでさえそれがどの位置に建っていたのか、正確には言えなくなっている。

(担当:久田晴則氏)

William Powell Frith, The Derby Day (1856-58)

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