OUR MUTUAL FRIEND
『互いの友』
主な登場人物|作品の梗概
主な登場人物
- ジョン・ハーモン(John Harmon)
ごみ集めで財を成した老ハーモンのむすこ。この小説の中心人物。父親に疎んじられてケープ(Cape)へ行っていたが、父死去の報で帰国の途につく。父の遺言でベラ・ウィルファー(Bella Wilfer)と結婚することになっている。テムズ河に船がはいったとき、船員のひとりに襲われて金品を奪われ、死んだものとして河に投げ込まれる。よみがえった彼は河岸に泳ぎつき、彼自身のものだということになっている溺死体を見に行く。これ以後ジョン・ハーモンは死んだものと見なされ、彼が名のることになった仮名の青年ジョン・ロークスミス(John Rokesmith)が現われることになる。彼がベラの人柄を、亡父の遺志と無関係な一個の男性として判断したいと思ったからである。この名前で彼は父親の部下だったボフィン(Boffin)の所に勤めることになり、また同時にウィルファー家に下宿し、自分の妻になるはずだった娘に会う。彼女はボフィン家に引き取られるが、ジョンは自由意志で彼女を愛するようになり、彼の正体を見破っていたボフィン夫妻の支援を得て彼女と結婚する。結婚後一年たってから自分の身分を明かし、亡父の財産を受け継ぐ.
- ニコデマス(またはノディー)・ボフィン(Nicodemus or Noddy Boffin)
ハーモンの信頼厚かった部下。ハーモンのむすこジョンが死んだことになり、ボフィンは遺言により10万ポンドほどの財産の受取人になる。ジョンと結婚するはずだったベラ・ウィルファーの失望を慰めるために彼女を養女とする。仮名を用いて彼の所に勤めることになったジョンの正体を見ぬき、ふたりの愛の自然の発生を待って、ジョンとベラとの結婚を取り持つ。悪党サイラス・ウェグ(Silas Wegg)が、新しい遺書が見つかったとして彼を恐喝しようとするが、ジョンによって食い止められる。
- ベラ・ウィルファー
ジョンと結婚するよう老ハーモンに決められた女性。気まぐれだが魅力的な性格。ジョンが死んだことになり、結婚もしないのに未亡人同様になったことを嘆いている。ボフィンの養女になり、一時は高慢になった。ロークスミス(実はジョン・ハーモン)に求婚されると、彼のような下賤な者とは結婚する気はないと言うが、ボフィンが彼を虐待する(振りをする)のを見て、同情心が起こり結婚を承諾する。
- リジー・ヘクサム(Lizzie Hexam)
テムズ用で溺死体から金品を奪うのを業としているガファー・へクサム(Gaffer Hexam)の娘。弟チャーリー(Charlie)を献身的に育てる。父が死んだときユージーン・レイバーン(Eugene Wrayburn)と知り会いになり、彼の世話で読み書きを習う。ブラドリ-・ヘドストーン(Bradley Headstone)の求婚をしりぞけチャーリーに非難される。ヘドストーンはレイバーンを恋敵として恨み、彼を殺害しようとするが失敗する。リジーは瀕死のレイバーンを看病し、彼の意識の回復を待って結婚する。
- チャーリー・ヘクサム
リジーの弟。利己的な少年で立身を夢み、学校で勉強に励む。姉が恩師ヘドストーンの求婚をことわると、チャーリーは姉を義絶する。次にヘドストーンがレイバーンを殺そうとしたのを知ると、巻きぞえになって出世が妨げられるのを恐れて、彼を離れる。
- ユージーン・レイバーン
怠惰な弁護士。なんとない好奇心からハーモン事件に興味を持ち、その関係でリジー・ヘクサムに会って心を引かれる。リジーも彼を好きだが、ヘドストーンが嫉妬しているのを知り、身を隠す。レイバーンは彼女の居所をつきとめるが、ヘドストーンに襲われる。命を取り止め、リジーと結婚する。
- ブラドリー・ヘドストーン
チャーリー・ヘクサムの学校の教師。チャーリーの姉リジーに激しい恋を感じ、邪魔者のレイバーンを殺そうとして果さず、この秘密を知った悪党の船頭ローグ・ライダーフッド(Rogue Riderhood)に恐喝される。彼はライダーフッドに口止め料を払う約束をし、場所を決めて会い、殺そうとして水門に連れ込むが、ふたりとも溺死する。
- ジョン・ポズナップ(John Podsnap)
自己満足にふける金持の海上保険業者。彼は「神意がどこにあるかを常に知っていたが、不思議にも神意の意向とポズナップ氏の意向とは必ず一致していた。」豪華なヴェニアリング家(the Veneerings)のパーティーの常客で、気に入らない話題が出されると、「そんなことは知りたくない、議論したくない、認めない」と一蹴してしまう。彼にとっての大間題は、ある話題が若い娘を赤面させるかどうかということで、例えば、不況のために餓死した者があったと語ることは、若い娘を恥ずからしがらせるが故に適当でないという。 - サイラス・ウェグ
片足が義足の悪党。文盲のボフィンに、報酬をもらって本を読んでやることを引き受ける。ボフィソの邸内に住むことになり、その所有のごみの山を探していて、老ハーモンが残した、今まで見つかったのより新しいと思われる日付の遺書を見つける。それには全財産を国庫に寄贈すると書いてあった。これによってボフィンを恐喝しようとするが、相棒の剥製業者ヴィーナス(Venus)の心変わりのため失敗する。
作品の梗概
ガファー・ヘクサムは、テムズ河から死体を引き揚げることで生活している。彼の相棒はロージャー・ローグ・ライダーフッド(Roger)である。ヘクサムと娘のリジーは河から、ある男の死体をさがし出す。彼はそれから得られる報酬をリダーフッドには分けてやらないと言う。
ロンドンの新区域の新住宅に成り上り者のヴェニアリング夫妻が住んでいる。夫妻の催した晩餐会で、若い弁護士モーティマー・ライトウッド(Mortimer Lightwood)が、ごみの山で財を成したジョン・ハーモンの話をする。彼はむすこのジョンが、姉の扱いについて抗議したので彼を家から追い出した。むすこは外国で生活していたが、父の死で帰国することになったという。話の途中でライトウッドはジョン・ハーモン青年の死体がテムズ河で見つかったという報告を受け、友人のユージーン・レイバーンとヘクサムの家へ行く。そこでジュリアス・ハンドフォード(Julius Handford)と名のる青年が、やはり死体を見に来ているのに会う。
ジュリアス・ハンドフォードとは(物語の半分ほど進むまで明かされないが)、実はジョン・ハーモン青年その人なのである。彼はケープから船で帰る途中、彼と姿の似ている三等航海士と服装を代え、人間も入れ代わって自分は正体を隠して、父に決められた許嫁ベラ・ウィルファーを観察しようと考えた。もし彼が彼女と結婚しなければ、父の遺産はニコデマス・ボフィンのものとなるはずである。
船がイギリスに着いたとき、三等航海士はハーモンに麻薬を飲ませて金品を奪ったが、彼自身が下宿で他の者に襲われた。ハーモンも航海士も河に投げ込まれ、航海士は死んで、彼の死体がハーモンのものと誤認されたのであった。ハーモンは河からはい上がって助かったのである。
今は公式には死んだことになったので、ハーモンは仮名で生活する計画を続けようと決心する。ジョン・ロークスミスと名のった彼は、ヴェニアリングの会社の社員ラムティー・ウィルファー(Rumty)の家に下宿する。この家には気性の荒い妻と二人の娘ベラとラヴィニア(Lavinia)がいる。彼は、ベラが美しいが、虚栄心が強く、金に執着が強すぎるのを知る。
ボフィン氏は今はハーモンの財産の支配人である。彼と妻とは、自分たちにころげ込んだ遺産を喜ぶどころか、ジョンのものと思われる死体の発見されたことを悲しみ、犯人を捕えた者に一万ポンド与えると広告する。ボフィン夫人は、愛していたジョンの代りとして育てるため孤児を養子にしようとする。また、夫妻はベラに自分たちの家に来ていっしょに住むように説く。彼女は喜んで承諾する。ウィルファーの家で夫妻はジョン・「ロークスミス」に会う。彼のことをボフィンは「互いの友」と呼ぶ。ジョンはボフィンの秘書になる。ボフィン夫人は、ジョンが家にはいって来たとき、老ハーモンとそのむすこと娘の顔を思い出す。
ボフィン夫妻は、ベティー・ヒグデン(Betty Higden)の孫ジョニー(Johnny)を養子にしようとするが、彼は病院で死ぬ。ベティーは救貧院に入れられるのを嫌って家出し、疲労で死ぬ。
ジョンとベラの物語と平行して、リジー・へクサムをめぐる話が展開する。彼女はレイバーンおよび、彼女の弟の教師ブラドリー・ヘドストーンの興味を引く。彼女の父親が、ジョン・ハーモンと思われている男を殺したとして非難された後、事故で溺死したので、リジーはウェストミンスター(Westminster)へ行って、ジェニー・レン(Jenny Wren)と呼ばれているファニー・クリーバー(Fanny Cleaver)の家に住む。ジェニーは人形の着物を作って酒飲みの父親を養っている。ヘドストーンがリジーにうるさくつきまとうようになるので、彼女は親切なユダヤ人ライア(Riah)に頼んで、ロンドン郊外の紙工場に仕事をさがしてもらう。
上流社会では、ジョン・ハーモンのことが話題になっている。ヴェニアリング夫妻は、ボフィンに彼の秘書は策士だという。ジョンはベラに求婚するが、金のない人に興味はないと断わられる。ボフィンは、秘書がジョン・ハーモンだと見破っているが、ベラの気持を改めさせるため、ジョンを迫害する振りをする。また、ボフィンは吝嗇漢になったように見せかける。ついにジョンは解雇される。ベラは同情して後を追い、彼と結婚する。しかし、彼女はまだ彼をロークスミスという人だと思っている。
レイバーンはリジーをさがし当てる。しかし、彼はヘドストーンに尾行されている。レイバーンはリジーに求愛するが、身分の違いを理由に断わられる。ヘドストーンは、レイバーンがリジーの愛を得たものと思い、リジーと別れた彼を襲い、河に投げ込む。リジーがレイバーンを救って看護し、彼に結婚の約束をする。ヘドストーンは、自分を恐喝していたライダーフッドに会い、格闘して二人とも死ぬ。
ジョン・「ロークスミス」は、モーティマー・ライトウッドに会う。彼によってジョンの正体が明らかにされる。
老ハーモンの財産を国庫に寄贈するという遺言が見つかり、次にボフィン夫妻を名指した、日付けがさらに後の遺言が見つかる。ボフィンは惜し気もなく財産をジョンとベラに譲る。
- このページは宮崎孝一『ディケンズ:後期の小説』(東京:英潮社、1977) から取ったものです。転載を日本支部に快く許可してくださいました宮崎孝一氏に感謝いたします。
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